ヨハン・スンドベリ『歌声の科学』 3「呼吸」の章

 

カテゴリー「発声の本棚」では各本の要点やちょっとした内容、感想やエピソードなどを自由に書き残します。発声に関する重要な点についても各本中から抜粋し触れることがあるかと思いますので、気になる方は是非ご覧ください。

 

発声に関しての具体的な疑問に対するこの本における答えに関しましては、「疑問から発声を知る」の欄をご覧ください。

 

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目次

1.本書を選んだいきさつ

2.最も力を入れて書かれていた部分、また補足

3.感想

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1.本書を選んだいきさつ

筆者は元々大学で美学芸術学なるものを専攻しておりました。実技ではなく、芸術(いわゆる絵画などの美術に限らず、音楽、映画、漫画、建築など範囲は多岐にわたります)が社会に与えた影響ですとか、逆に与えられた影響、芸術の意義、哲学など他にも様々なことを論文にまとめるのですが、これが非常に難しいのです。芸術というある種謎めいたものを論理的に扱わねばならず、かなり鍛えられました。

 

そこでお世話になったのが大学においてあったこちらの本でした。当時はどちらかといえば音楽心理学的な面で論文を探していたので、発声の機能の部分に関しては、「なんか理系っぽい難しそうなことが書いてあるなー」くらいにしか思っていませんでしたが、絶対に発声の理解に役立つからいつか読まなければとも思っていました。

 

基本的にボイストレーナーの先生を選ぶにあたって、より知識の深い方に習いたいと思いそういう先生方に習いに行っていましたが、やはりそこでお話しをしてみて薦められた本は『歌声の科学』であり、薦められるとまでいかなくても、先生の本棚に必ずおいてある、出版された本の参考文献に載っているなど、どこに行っても『歌声の科学』と顔を合わせました。また、声のための有名なサロンの先生の本棚にもありましたね。バイブル的な存在なのかもしれません。このような経緯でやはり必読であると感じ、購入しました。

 

2.最も力を入れて書かれていた部分、また補足

さて、少し内容の話をしましょう。本書呼吸の章では、まず呼吸の仕組みや機能を書いた後、それが歌唱の何を担うのか、何を司るのかについて触れられています。そこで様々な実験や検証をもって多くのページを割いて述べられているのが、

 

①呼吸筋のコントロールは発声において非常に俊敏で精密に行われること

②声門下圧は主に声の大きさを決定すること

(音程にも関わってはくるが、音程を制するのは主に喉頭筋群であると述べられています)

 

の2点です。また、章の最後に過去の実験を示しており、結果から発声訓練未経験者に比べて経験者は同じ大きさの音をより少ない声門下圧と呼吸流量で発することが出来ること、あらかじめ指示された音を立ち上がりを早く力まず出せることなどが観察できます(Rubin et al.,1967より)。

 

3.感想

最初にバイブル的存在なのかも…と書きましたがそれを裏付けるように全体的に参考文献の情報が古いです。また被験者がどうしても少ないですね。情報が古いことに関しては、信頼に値する実験結果がたまたま過去に多いということなのでしょうか。被験者が少ないことに関しては今後の、またはこの本以降の同じような実験からも引き続き情報を収集し続けることによって補完できればと思います。次はいよいよメインともいえる喉頭音源の章です。皆様に有益な情報を提供できるよう頑張りたいと思います。

 

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参考文献

 ヨハン・スンドベリ『歌声の科学』榊原健一監訳 伊藤みか,小西知子,林良子訳,東京電機大学出版局,2015,pp25-49(3「呼吸」の章)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呼吸についての素朴な疑問 ③長く息が続かないよ!肺活量を増やせばいいの?『歌声の科学』より

 

この投稿は、長く息が続かないよ!肺活量を増やせばいいの?という疑問に対する

ヨハン・スンドベリ『歌声の科学』榊原健一監訳 伊藤みか,小西知子,林良子訳,東京電機大学出版局,2015,pp25-49(「呼吸」の章)

という文献から得た答えをまとめたものです。他の文献で得られる知識を敢えて省いていますので、もちろん以下の文が発声における結論や、最適解であるわけではありません。ご注意ください。

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導入

驚異の8分間息吐きっぱなし!

スゴイですね。

 

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疑問:長く息が続かないよ!肺活量を増やせばいいの?

 

目次

1.肺活量とは

2.肺の仕組みとFRC(機能的残気量)、またこれらによって推測される肺活量を増やす手段

3.長く息が続く状態とは?その時喉はどうなっているか

4.結論

 

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1.肺活量とは

肺活量とは、肺に入れられる吸気の量の最大値である全肺気量と最大呼気の後も少し肺に残る残気量の差、つまり実際に活用できる空気の量である。数式としては

 

VC(male)=(2.8-0.011A)L

VC(female)=(2.2-0.01A)L

※A=年齢、L=身長(m) 

 

2.肺の仕組みとFRC(機能的残気量)、またこれらによって推測される肺活量を増やす手段

 

肺の仕組み

肺はその配置上、肺自体が動いているわけではなく、肺を囲む横隔膜や胸郭の広がりに依存して呼吸を行う。(※←この文がスッと入ってこない方は肺の仕組みにおける圧力に関する物理的な知識を図版などを交えて解説している、萩野仁志 後野仁彦『「医師」と「声楽家」が解き明かす発声のメカニズム』音楽之友社,2014 が非常にわかりやすくまとめているのでおススメです。画像はアマゾンwww.amazon.co.jp/よりお借りしました。)

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また、呼吸を促す力は肺気量(単純に肺の中にある空気の量。肺活量とは違う)に依存し、肺気量が少なければ吸いたい圧力がかかり、多ければ出したい圧力がかかる、といったように互いに作用する。

 

FRC(機能的残気量)とは

ここで、息を吐いているとき、最初は気持ちよく吐いているが、呼吸は止まることはないので吐き終わるにつれてだんだん吸いたくなる。また、息を吸っているとき、吸い尽くすにつれてだんだんまた息を吐きたくなる。この、吐いているときから吸いたくなるように変わる瞬間、また吸っている時から吐きたくなるように変わる瞬間=転換期のことをFRC(機能的残気量)という。つまり息を吐きたくも吸いたくもない瞬間である。

 

これら肺の仕組み・FRCから推測する肺活量を増やす手段

これらを踏まえてスンドベリは「いかにして肺をよりペシャンコにしぼませるか」と述べている。肺をしぼませるということはつまり空気を出し切るということであり、空気を出し切るということはその分吸気の圧力が強くなるということであるからであろう。しかし、だからといってとにかく息を吐く練習をすればいいというわけではなさそうである。

 

例えば、長いフレーズをピアニシモ(pp)で歌わなければならないとき、大きく息を吸う。しかしこの時吐き出したい圧が強くかかる。これを静かに長く吐き出すことが出来るのは吸気筋の補助的な作用である。反対に譜面の都合上吸う時間が極端に短く少ししか息を吸えないのにフォルテッシモ(ff)で強く出さねばならない時がある。この時も、肺気量は少ないので吸気の圧力が強くかかるが、補助的に呼気筋が動く(要は頑張るのですね)ことによって発声が達成される。また、Gouldによると、歌手でない人よりも歌手のほうが平均して20%肺活量が大きい。(Gould,1977)

 

このように、肺活量を取り巻く筋肉たちは様々な使われ方をする。さらに次章でも読み解く通り、発声においてはこれらの呼吸筋の動きとともに声帯を使って音を出すという作業を同時に行う必要がある。読んでもらえば分かるであろうが、呼吸だけの訓練や、肺活量を増やすこと「のみ」に着眼点を置く際には、注意が必要であるようである。

 

3.長く息が続く状態とは?その時喉はどうなっているか

いよいよ肺から離れて、まさに声門(声帯と声帯の間)を通る空気流量をみていく。空気流量の主な要因は声門下圧と声門抵抗である。関係は以下の様である(図は発声ノート作)。

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声門下圧により発せられた空気流量は声帯の内転の影響を受けながらその結果音として流れ出る。ここではあくまで「呼吸」の章を読み解いているのであえてこの「内転」には触れない。おそらく4章「喉頭音源」で明らかになるだろう。

 

声門下圧に対して声帯の内転が弱すぎると音としては「気息性」、の弱々しい音となり、声門下圧に対して声帯の内転が強すぎると「喉詰め」、苦しそうな声になる。おそらくこうした声はまた、ポリープや結節などの声帯の不具合を引き起こすかもしれない。

 

上記より、声門下圧と声帯の内転(声門抵抗)の関係が最適のバランスであることが大事なことのように思われる。つまり、出そう!と思う呼吸器系の勢いを大なり小なり声帯が適した力でもって受け止められるかどうか、と言うことである。呼吸器系だけが強くても、また声帯だけが強くてもうまくいかないのではないだろうか。ロングトーンをプロの歌手のように成しえるには、豊富な肺活量を蓄えられる呼吸筋群と、それに対応できる声帯の内転力、さらにそれらをバランスよく共和させるコントロール力が求められるというのが、本文献から得られる答えのように考えられる。

 

4.結論

長く息が続かないよ!肺活量を増やせばいいの?

に対する答えとしては

 

肺活量を増やすことは重要だが、肺活量だけ増やすのは得策ではない。長く息が続くには、肺活量を増やすだけでなく増やされた肺活量に対応できる声帯の抵抗力とそれらを統合して操るコントロール力が必要である。

 

ということになろうか。また、空気流量は音の高さには依存しない。かつ、プロの歌手は同音のクレッシェンドでも空気流量に関してはほとんど増すどころか減る場合もあるという。裏声では空気流量が増したという結果があったことも付け足しておこう。いづれにしても本疑問は議論の余地ありなので最初に書いた通り、発声における最終結論ではないことを最後に述べて置く。

 

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お疲れさまでした。ええ、疲れましたとも。自分では理解していてもいざ人に伝えるとなると難しいものですね。人に理解させようとすると感情的な面を排除しなければならず、「なんとなくそんな感じがするから」とかそんな言い訳が効きません。しかし、自分でも理解がより定着して良いですね。本文は最初の投稿段階であまり推敲をしておりませんので、後々書き直すことがあります。ご了承ください。

 

呼吸についての素朴な疑問 ②歌といえばやっぱり腹式呼吸でしょ?『歌声の科学』より

この投稿は、歌といえばやっぱり腹式呼吸でしょ?という疑問に対する

ヨハン・スンドベリ『歌声の科学』榊原健一監訳 伊藤みか,小西知子,林良子訳,東京電機大学出版局,2015,pp25-49(「呼吸」の章)

という文献から得た答えをまとめたものです。他の文献で得られる知識を敢えて省いていますので、もちろん以下の文が結論や、最適解であるわけではありません。ご注意ください。

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導入

腹式呼吸―――それは何年だかに始まったEU諸国のどこかの国で発表された論文がたまたまアメリカに広まったため認知されるようになったという噂を聞いたことがあったりなかったりするようなしないような…

 

…明確な答えを期待されている方には申し訳ありませんが、少なくとも本文献から得た答えに関しては、「歌といえばやっぱり腹式呼吸でしょ?」という疑問に対して巷で言われているように「そうそう腹式呼吸サイコー!マスターしよーねーっ!やり方はこうだよーっ!胸式呼吸は浅いから○ね!」っと簡単にいえるほど単純ではございません。要は呼吸に関しては色々なやり方や説があるから一概には言えません。ということです。本文献に関してはね。なのでなんともふにゃふにゃした読了感のない文になること間違いなしです。そういった意味では必読ですよ。それでは、勇気のある方は下へどうぞ。

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疑問:歌といえばやっぱり腹式呼吸でしょ?

目次

1.呼吸に必要な筋肉

2.腹式呼吸とは?胸式呼吸とは?

3.「ベリーイン」「ベリーアウト」方式と各種実験に対するスンドベリによる考察

4.結論

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1.呼吸に必要な筋肉

呼吸に必要な筋肉に関し、スンドベリは第一に内(吸気)肋間筋・外(呼気)肋間筋、第二に横隔膜筋、腹壁筋を挙げている。かつ、各筋肉は互いに補助、代用しあっていると述べている。

 

2.腹式呼吸とは?また胸式呼吸とは?

「胸式呼吸」という言葉自体はページ内では確認できなかった。腹式呼吸に関しても「腹式呼吸」という言葉自体は確認できなかったが、「肺内への過剰な圧力は横隔膜を通じて下方へ伝えられる」とあり、これが一般的に言われている腹式呼吸であるといえるだろう。ということはおそらく通常の呼吸のように肺内に「過剰な」圧力がなければ横隔膜は胸郭をサポートする必要はないということで、これがいわゆる胸式呼吸にあたるのではないだろうか。

 

いづれにせよ、本文献内では胸式・腹式呼吸の文字は見当たらず、スンドベリ自体がそのような分類をしていない、またはする必要がないと考えているようである。呼吸に関して彼が述べていることといえば、内肋間筋の収縮により胸郭の上方と側面が広がることによって肺気量が多くなること。そして、横隔膜筋の収縮により胸郭の下方が広がることによって肺気量が多くなること。である。では何が大事なのか、次の章で見ていく。

 

3.「ベリーイン」「ベリーアウト」方式と各種実験に対するスンドベリによる考察

2章を踏まえると、とりあえずのところ肺気量が多くなるのだから、横隔膜を使った呼吸=腹式呼吸がより良いのかと言われればそうとも言い切れないようだ。ここで彼が取り上げたいくつかの実験結果とそれに対する彼の考察を述べる。

 

1)「ベリーイン」「ベリーアウト」方式

まず、「ベリーイン」「ベリーアウト」方式について。胸式・腹式呼吸という言葉さえ出てこないものの、ベリーイン・アウトはそれぞれ「腹壁を内側にへこます」「腹壁を外側に広げる」という記述があることや、「ベリーイン方式では横隔膜だけでなく呼気(外)肋間筋も緩んでいて」といった記述があることなどから2章の考察と照らし合わせ、ベリーイン=胸式、ベリーアウト=腹式と考えてよいだろう。問題はHixonとHoffmanによる「筋肉がすでに収縮をしている場合よりも緩んでいる場合のほうが、筋肉は収縮しやすい」という見解からこの各方式が互いにメリットを含むと結論づけられることである。つまり、ベリーインで横隔膜と呼気肋間筋が緩んでいるならばベリーインの状態は呼気の力を呼び起こしやすいということになるし、ベリーアウトで腹壁筋と吸気肋間筋が緩んでいるならば、吸気の力を呼び起こしやすい、ということになる。つまりこの部分を加味すると胸式・腹式呼吸にはその性質に違いはあれど優劣の差はないということになる。

 

しかし、率直に言って特にこの辺りの記述は正確に理解しづらいので、もし間違った理解があれば指摘をお願いしたいところである。

 

2)各種実験対するスンドベリによる考察

ベリーイン・アウトの段落の後に、プロの歌手を対象として行われた各種実験の結果が示されているが、ここでは彼はあくまで横隔膜に焦点を置いている。

 

ある実験(Bouhuys et al., 1966)では「長い柔らかい定常的な声で歌う場合、5人の被験者のうち3人が横隔膜の呼気復元力が弱くなるように制御していた」。

 

スンドベリ自身の研究でも4人の歌手のうち1人は「長い定常母音の歌唱においてフレーズ全体を通して横隔膜筋の活動が観察された」。ほか3人は「横隔膜はフレーズ全体を通して弛緩しており、吸気のときのみ活動していた」。しかし、この「ほか3人」は声門下圧が急激に下がる高音から低音への移行時は「横隔膜は急激にかつ短い時間の間だけ収縮していたようであった」。そして先述の1人のほうは高い声門下圧で歌唱する際に「横隔膜の活動が増加した」。

 

また、拮抗する筋肉を両方同時に収縮させることで内臓の慣性を急速かつ正確にコントロールしようとするやり方は一般的である(Rothenberg,1968)ので横隔膜と腹壁筋を同時に収縮させることも、戦略の1つといえる。

 

以上のことをふまえ、スンドベリは「横隔膜は一般的に理解されているよりもはるかに重要な役割を担っており、また、横隔膜が果たす役割は、歌手によって異なった働き方として現れる」と段落の最後で述べている。

 

4.結論 

 つまるところ呼吸の仕方としては人それぞれで、使い分けが大事、というのが本文献を通して得られる事柄であろう。確かに腹式呼吸、つまり内肋間筋と横隔膜を用いて胸郭を大きく広げれば肺気量はその分多くなるが、実際の歌唱において優しくささやくようなフレーズや短いフレーズの場合には必要ないように思える。横隔膜の動きは確かに重要だが、その使い方はプロの歌手によってすらみな同じではないし、横隔膜と腹壁筋に関してはを交互に収縮させるものと思いきや両方収縮させるやり方すらも十分にありうる。よって

 

歌といえばやっぱり腹式呼吸でしょ?

 

という疑問に対しては必ずしも腹式呼吸が良いというわけではなく、様々なやり方がありケースバイケース、つまり発声したいフレーズ次第である。と結論付ける。

 

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やはり、なんともはっきりしない結論になってしまいました。また、自分の文の構成力の無さも要改善であるなあと苦い顔でなんとかまとめました。それにしても本文献を考慮すると、ごく単純な「胸式呼吸はダメで、腹式呼吸で歌おう!」という教えはあまり適切でないように思います。プロの中でもやり方が異なるということは、仮にそのプロたちが生徒を持った場合、それぞれが自分のやり方を正しいという判断のもと伝授するので、時折「○○先生が正しくて他は間違っている!」と偏った意見を持つ人も現れることでしょう。また、2人以上の指導者がいる場合、その2人の横隔膜の使い方によって教え方が異なり、「各先生方の教え方や言うことが全然違う!どっちが正しいの!?どうすればいいの!!」と路頭に迷う人も出てくることでしょう。そんなとき、異なるやり方があるということを知っているだけでも、気持ちの助けになるかもしれませんね。そういった意味では意義があったかと思います。

呼吸についての素朴な疑問 ①話声と歌声で呼吸についてはどう違うの?『歌声の科学』より

この投稿は、話声と歌声で呼吸についてはどう違うの?という疑問に対する

ヨハン・スンドペリ『歌声の科学』榊原健一監訳 伊藤みか,小西知子,林良子訳,東京電機大学出版局,2015,pp25-49(「呼吸」の章)

という文献から得た答えをまとめたものです。他の文献で得られる知識を敢えて省いていますので、もちろん以下の文が結論や、最適解であるわけではありません。ご注意ください。

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話声と歌声の違い

目次

1.肺活量の利用度合い

2.空気流量

3.声門下圧

4.結論

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1.肺活量の利用度合い

話声では約50%の肺活量(肺の容量とは別に、実際に活用できる空気の量)が使われ、FRC(吸いたい圧力のかかる点と吐きたい圧力のかかる点がちょうど重なるところ=ちょうど息を吐きたくも吸いたくもない点)よりやや大きい肺気量(肺にある空気の量)のあたりまでが使われるが、多くの場合FRCより低い。つまり、比較的肺活量の使用に余裕があるといえる。

 

この値が、大きい声の朗読になると肺活量の10~70%、最大の声の朗読では15~95%になる。歌では5~100%近くに達する。つまり息を使う割合が、

 

話声<大きい声の朗読<最大の声の朗読<歌

 

となる、ということである。

 

2.空気流量

空気流量については話声が0.1~0.6リットル/秒との実験結果が記載されている。歌声についての明確な実験結果は記載されていないが、現実的な急速な空気流量については5リットル/秒であることが知られていると明記されている。おそらく歌唱中はテンポによって遅い分にはいかようにも対応できるといった判断のもと、0.1~5リットル/秒としてよいだろう。ここでも、話声<歌声ということが確認できる。

 

3.声門下圧

声門下圧について、通常の話声は6~15㎝H₂O、歌声は20~30㎝H₂Oに達することも珍しくないとの表記があった。しかし、歌声に関して、70㎝H₂Oの記録があることやスンドペリ自身の研究でもソプラノやテノール歌手により高いピッチの強い音が歌われた際同様の結果になったことがあることなどから、歌手によって、また声質区分や声種などによっても声門下圧は変わってくるのではと疑問を残している。

 

4.結論

以上の記述から、本投稿における結論としては、

話声と歌声で呼吸についてはどう違うの?

に対する答えとしては、ざっくりいえば歌声のほうが、使える息(肺活量)のうちより多くの範囲を用いて、声門により素早くよりたくさんの空気を通して、より強い圧力(声門下圧)の範囲まで使って呼吸をしているよ、といえば理解しやすいであろうか。さらに、章の最後には話声では呼吸器官の受動的な復元力が重要な役割を果たす――つまり頑張りすぎないおさまりの良い力を使えばよいのに対し、歌声では能動的な筋肉の働きかけが必要とも書かれている。

 

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呼吸に関していえば、本投稿における結果はさほど理解しがたいものでもないですね。単純に考えて、お喋りよりも歌唱のほう呼吸がタイヘンな気はします。話声と歌声の違いについて、最も注目すべき違いはどちらかといえば内外喉頭筋群の使い方ですが、歌でしか使われない筋肉、などといった区分になるのでしょうか。しばらく呼吸編が続くと思われますが、まとまり次第書いていきます。よろしければお付き合いください。

 

 

 

海外では喉に使われない?トラネキサム酸 女性の方は特にご注意を

 

こんにちは。

本日は喉に良いのか悪いのか分からないもの、紹介いたします笑

月経との関わりもございますので、女性の方は特にご覧ください。

 

 

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みなさんご存じトラネキサム酸です。写真はトラネキサム酸が配合されている市販薬のペラック。

 

ある日、自分が飲んでいる薬を改めて調べていると、こちらの記事に出会いました。

 

とても丁寧かつ簡潔に解説されており、必要で濃い情報が詰まっているのにくどくなく読みやすい記事で、内容にも驚きつつ書き方も非常に勉強になりました。念のため当ブログで記事を取り扱ってよいかの確認をコメントいたしましたところ、とても丁寧な返信をいただきました。重ねてお礼申し上げます。

 

そして、こちらでも繰り返し申し上げておきたいのは、喉に直接的に効くのかという疑問は別として、トラネキサム酸自体は数々の場面で活躍してきた素晴らしいものであるということです。本記事ではあくまで喉(の痛みや粘膜の等の正常化)に対しての効力はあまり期待できないかも、ということを元の記事を参考にお伝えいたしますが、決してトラネキサム酸自体の価値を否定するものではありません。ご了承いただきたく思います。

 

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トラネキサム酸と月経

私もトラネキサム酸は、声がおかしい、または風邪などの際、内科や耳鼻咽喉科で処方されていました。喉にデキモノができて2か月ほど沈黙治療と共に飲み続けたこともあります。歌を歌うようになって、最初に処方された喉の薬がトラネキサム酸であったし、市販の薬にもよく配合されていましたので、特に深く考えず頼りにしていました。

 

しかし、喉にデキモノができたときや風邪の際、生理周期が乱れ、不正出血が起こるようになりました。この不正出血は、歌の練習ができないことへのストレスなどで説明がつくといえばつくのですが、どうもトラネキサム酸を4日~1週間以上飲みだすと生理が遅れ、不正出血が起こるような感覚がありました。私自身ストレスが原因とみられる不正出血は今まで少なくなかったのであまり気にしていませんでしたが、暇な日に調べてみるとこの予想が見事に合っていたようです。

 

参考元の記事によればトラネキサム酸は海外では月経出血などを緩和する止血剤として使われることが多いらしく、見事にこの効果を私に対して発揮していたようです。それを知って以来、頼り切っていたトラネキサム酸とは少し距離を置くようになりました。

 

むくみ易くなったり食欲増減や感情の起伏が激しくなったり、体の調子が大きく変わる月経や排卵は女性歌手にとって切実な問題です。私は生理1,2日前後は顔や体がむくみ、声帯もむくむのか重くなり歌いづらくなります。なので、ステージなどがある際は予定やコンディションをうまく調整しなければなりません。きちんと定期的に月経が安定して来れば、対応もしやすくなります。というわけで、私はトラネキサム酸はあまりむやみには使わないことにしています。

 

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トラネキサム酸は、とても安価で使い易く、よく処方されるようです。なので今回の情報は特に女性の方は知っておいて損はないかと思います。よろしければ、参考になさってください。

 

 

 

 

 

歌手、シンガー、声を仕事にする人のための花粉症対策

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こちらでは私の独断と偏見で喉のメンテナンスに使えるであろう物をリサーチし、個人的な感想を述べたいと思います。あくまで個人的な見解ですので、内容に関する責任は一切負いかねますが、よろしければ参考にしてみてください。

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こんにちは。

本日は声を仕事にする人のための花粉症や鼻炎、副鼻腔炎への対策についてお話します。

 

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抗ヒスタミン剤の副作用「口渇」

まず第一に我々が考えなければならないのは、抗ヒスタミン薬が含まれないものを選ぶことです。ヒスタミン薬には口渇の副作用があり、粘膜の乾燥を感じる場合があります。私も一時期アレグラを2か月服用し喉に違和感を覚えました。もちろん副作用なので、飲んだら必ず身に起こるわけではありませんが、独立行政法人医薬品医療機器総合機構アレグラ錠30mg/アレグラ錠60mg/アレグラOD錠60mgによれば0.1~5%未満の確率となっており、多くはありませんが少なくはなさそうな数字です。加えて、ヒスタミン薬はいくつかの種類があり、鼻にシュッとするヤツや、目薬なんかにも名前が違えど含まれています。薬を選ぶ際は成分を見てみてくださいね。

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というわけで、本日私が紹介いたしますのはこちらの4つ。

 

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左からカンロ「花鼻迷惑」、無印良品「アップル&エルダーフラワー(ハーブティー)」、森下仁丹「鼻・のど甜茶飴」、資生堂「IHADA ALLERSCREEN(イハダ アレルスクリーン)」です。

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●カンロ 花鼻迷惑

甜茶エキス、紫蘇の実エキス、ミントポリフェノール、紫蘇の葉、甘草、熊笹、山査子、なつめ、八朔などとともに乳酸菌も配合されたスーパーのど飴です。通年の商品ではなく毎年花粉の季節になると店頭に並ぶようですね。私が初めてこれを目にしたときは、さらにこちらのゴールド版なるものがあったのですが、そちらはもう売っていないようです。配合物を見ていただければ味はお察しですね。とはいえ毎年非常に頼りにしています。正直こんなに手軽で様々な成分が詰まったものは他にないと思いますのでこれがなくなったら大きな損失です。カンロさん来年もお願いね。

 

無印良品 アップル&エルダーフラワー ハーブティー

アップルはいいとして、エルダーフラワーというのはハーブ界ではかなり優秀で風邪予防や粘膜などにオールマイティで効くすんばらしいものなんだそうです。その効能たるや調べていただければいたるところに書き殴ってあるのですが、花粉症にも例にもれず効果を発揮するのだそうで。なんといってもとってもおいしいのでリラックス用兼症状が出た時に気楽に飲んでいます。なんだかんだで少し楽になるので効果もあると言っていいのかと思います。無印にはカモミールティーやカシスオレンジティーなどリラックス効果やビタミンを含むお茶が置いてありますので気が向いたときに買っています。たまに大根はちみつや生姜を投入したりもします。

 

森下仁丹 鼻・のど甜茶

こちらは主に症状がひどく、対処としてとにかくスッキリしたいときに舐めています。甜茶、甘茶に加えペパーミントとユーカリが入っていてスース―感が強いので、クールダウンの役割で使っています。喉のための成分もカンゾウくらいで鼻ケアメインですね。それ以上でもそれ以下でもなく書くことがありません。以上です。

 

資生堂 IHADA ALLERSCREEN(イハダ アレルスクリーン)

こちらはシューっと吹きかけるとその部分を花粉からブロックしてくれるよと言う商品です。食べたり飲んだりするもの以外での対策として、ワセリンを目や鼻付近に塗るというワザを半信半疑で試したところとても効くことが分かりました。が、そういったものに関しては、各社製品を出されていますが、私は目元や鼻の穴付近に直接何かを塗ることに抵抗があったのでスプレータイプの物をみつけ飛びつきました。いかほど含まれているのかわかりませんが、天然温泉水配合でメイクの上からも使えるとのことでしたので、買ってみたところ、なかなか良かったので毎年お世話になっています。もちろんこれを吹きかけたうえで基本マスクをつけ続け、3~4時間ごとに再度吹きかけているのですが、かなり楽になりました。恐らくひどい日でなければ吹きかけていればマスクをせずとも少しの間なら耐えられるのではないかと思います。

 

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いかがでしたでしょうか。よろしければ参考になさってください。また、本当にひどいときは小青竜湯を服用し、吸入器で鼻を洗浄などもしています。そして、乳酸菌がいいと聞きましたのでヨーグルトを食べたり食べなかったりしながらひたすら花粉が飛んでいくのを待つのみです。花粉さえなければ春は大好きなんだけどなあ。皆さま、少し早いですが来たる春に向けて態勢を整えましょう。それでは。

咽喉頭異常感症 梅核気 ヒステリー球 ストレスと喉

 

こんにちは。

先日flumpool山村隆太さんが機能性発声障害で活動休止の記事を挙げ、「機能性」にてついて少し解説しましたが、本日は広義ではこの機能性発声障害の一つともいえる、梅核気、ヒステリー球などとも呼ばれる「咽喉頭異常感症」について書かせていただきます。

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1.咽喉頭異常感症、ヒステリー球、梅核気とは

2.私が陥った症状、経緯

3.解決への工夫と半夏厚朴湯

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1.咽喉頭異常感症とは

例の山村隆太さんの記事でも述べましたが、この症状は目に見える悪いところは無いのです発声器官の状態はいたって正常で、声は出せる状態であるのに、くせや習慣的なもの、また心理的なものにより、うまく動かすことが出来ない、または動かせるが違和感がある状態のことを指します。軽度の失声症とも言えるかもしれませんね。

 

2.私が陥った症状、経緯

実を言いますと私も経験しています。というより声の治療に積極的な耳鼻咽喉科に行き、一通り検査をしてもらいましたが、やはり私も(スコープなどで目に見える)異常はないと言われたのです。当時の状態が機能性発声障害そのものであったことを理解したのはそれから2年後でしたね。そして今でもストレスを感じると容易にこの症状が現れます。何のことはありません。

 

1)口渇の副作用がある抗ヒスタミン剤が含まれる花粉症の薬を2か月飲み続け、喉に違和感を感じていた

2)職場にストレッサーが何人かおり、仕事上その人達と会わざるを得ない状況であった

3)1)2)のストレスを抱えたままステージに上がり、良い歌唱が出来るはずもなく自己嫌悪と周りからの批判でさらにストレスに

 

これが続き見事にダメになりました。端的に言うとストレスでうまいこと歌えなくなったよー!ってことです。私の症状はどちらかといえば梅核気という東洋医学で知られる物に近く、まさしく喉に梅干しの種があるような感じがする、というものでした。恐らくストレスにより喉頭周辺のいづれかの筋肉が緊張することによって、そのような感覚(錯覚)が起こったのだと思われます。当時はそんなことは知らなかったのでお医者さんに疑いの目を向けて「ちゃんと診察してないんじゃないか、見落としているんじゃないか」とすら思っていました。

 

3.解決への工夫と半夏厚朴湯

1)については簡単ですね。抗ヒスタミン剤の含まれる薬(使用していたのはアレグラ)を辞めました。そして、花粉症の時期はマスク、花粉症対策飴(後で紹介いたします)、花粉除けスプレー(こちらも後で紹介いたします)の3つを使用し、なるべく外に出ないようにしました。

 

2)については偶然にも最大のストレッサーはご自分の別の仕事が忙しくなったようで当時の私の職場には来なくなったので離れることが出来ました。もちろん他にもストレッサーがいましたが、単純に彼女たちに嫌われないようにしよう(といっても好きだったわけではなく、単純に上司であるからでした)と思うことを辞め、またなんであんなにひどいことを言うのだろう?という答えのでない問いを持つのを辞めました。さらに幸いなことに、同職場に同じように同じ人からの被害に苦しんでいた人が見つかり共感しあえたことで私だけじゃないんだと思えたことが救いとなりました。

 

3)については1)2)を実行したうえで、思い切って2,3か月ほどお休みを頂きました。そんな状態でステージで歌ってもうまく歌えなくてストレスにストレスが重なるし自分を追い込むだけだと判断したためです。

 

半夏厚朴湯

1)2)3)に加え、偶然にも当時「こんな症状有りませんか?」と半夏厚朴湯のCMが目に入ってきました。その中に「ストレスからくる喉のつかえ感」という項目(一字一句正確でなかったらすみません)があり、飛びつきました。果たして、これが効いたのです。そこから調べるにつれ私はインターネット上で「梅核気」という症状を見つけ私の「なんだかよく分からないが喉にポリープがあるようでうまく歌えない」という状態に名前があることを知りました。そして解決に必要なのは喉を労わることではなく、ストレスを消し去ることだと理解したのです。

 

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――その後、人に話したり、ストレッチやヨガをしたり、発声のトレーニングを工夫しつつも当時まだきちんと発声を習い始めて1年も経っていなかったので、別にうまくならなくてもいいや、てか1年でそんなうまくなってたらみんな歌手になってるっしょ、ある程度の時間は必要必要、と、焦ることを辞めたりと様々なストレス解消、または思考の転換を図り自然と治っていきました。今もちょっとしたストレスを抱えると喉に違和感が現れますが上手に付き合うようにしていますし、転んでもタダでは起きない精神をフル活用して、どこかの筋肉が緊張して起こるということはその部分を弛緩させるような発声をしてみれば良いのではないか、とハミングやリップロールを試したりしています。なにか進展があれば順次お伝えしたいと思います。

 

私のようになんだかよく分からないけど声が出ない、喉がつまる、喉に異物感を感じる、という人が一人でも改善しますように、また咽喉頭異常感症 梅核気 ヒステリー球といった症状を知覚し、原因を見つけて対処できますように、願っております。