ヨハン・スンドベリ『歌声の科学』 3「呼吸」の章

 

カテゴリー「発声の本棚」では各本の要点やちょっとした内容、感想やエピソードなどを自由に書き残します。発声に関する重要な点についても各本中から抜粋し触れることがあるかと思いますので、気になる方は是非ご覧ください。

 

発声に関しての具体的な疑問に対するこの本における答えに関しましては、「疑問から発声を知る」の欄をご覧ください。

 

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目次

1.本書を選んだいきさつ

2.最も力を入れて書かれていた部分、また補足

3.感想

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1.本書を選んだいきさつ

筆者は元々大学で美学芸術学なるものを専攻しておりました。実技ではなく、芸術(いわゆる絵画などの美術に限らず、音楽、映画、漫画、建築など範囲は多岐にわたります)が社会に与えた影響ですとか、逆に与えられた影響、芸術の意義、哲学など他にも様々なことを論文にまとめるのですが、これが非常に難しいのです。芸術というある種謎めいたものを論理的に扱わねばならず、かなり鍛えられました。

 

そこでお世話になったのが大学においてあったこちらの本でした。当時はどちらかといえば音楽心理学的な面で論文を探していたので、発声の機能の部分に関しては、「なんか理系っぽい難しそうなことが書いてあるなー」くらいにしか思っていませんでしたが、絶対に発声の理解に役立つからいつか読まなければとも思っていました。

 

基本的にボイストレーナーの先生を選ぶにあたって、より知識の深い方に習いたいと思いそういう先生方に習いに行っていましたが、やはりそこでお話しをしてみて薦められた本は『歌声の科学』であり、薦められるとまでいかなくても、先生の本棚に必ずおいてある、出版された本の参考文献に載っているなど、どこに行っても『歌声の科学』と顔を合わせました。また、声のための有名なサロンの先生の本棚にもありましたね。バイブル的な存在なのかもしれません。このような経緯でやはり必読であると感じ、購入しました。

 

2.最も力を入れて書かれていた部分、また補足

さて、少し内容の話をしましょう。本書呼吸の章では、まず呼吸の仕組みや機能を書いた後、それが歌唱の何を担うのか、何を司るのかについて触れられています。そこで様々な実験や検証をもって多くのページを割いて述べられているのが、

 

①呼吸筋のコントロールは発声において非常に俊敏で精密に行われること

②声門下圧は主に声の大きさを決定すること

(音程にも関わってはくるが、音程を制するのは主に喉頭筋群であると述べられています)

 

の2点です。また、章の最後に過去の実験を示しており、結果から発声訓練未経験者に比べて経験者は同じ大きさの音をより少ない声門下圧と呼吸流量で発することが出来ること、あらかじめ指示された音を立ち上がりを早く力まず出せることなどが観察できます(Rubin et al.,1967より)。

 

3.感想

最初にバイブル的存在なのかも…と書きましたがそれを裏付けるように全体的に参考文献の情報が古いです。また被験者がどうしても少ないですね。情報が古いことに関しては、信頼に値する実験結果がたまたま過去に多いということなのでしょうか。被験者が少ないことに関しては今後の、またはこの本以降の同じような実験からも引き続き情報を収集し続けることによって補完できればと思います。次はいよいよメインともいえる喉頭音源の章です。皆様に有益な情報を提供できるよう頑張りたいと思います。

 

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参考文献

 ヨハン・スンドベリ『歌声の科学』榊原健一監訳 伊藤みか,小西知子,林良子訳,東京電機大学出版局,2015,pp25-49(3「呼吸」の章)